記憶固定化における役割
海馬は新しい情報を一時的に保持し、睡眠中に大脳皮質へ転送する記憶の固定化プロセスの中核を担う。覚醒中に経験した出来事は海馬の CA1-CA3 回路に一時的にエンコードされ、ノンレム睡眠中のシャープウェーブリプルと呼ばれる高周波バースト活動によって再活性化される。この再活性化が大脳皮質のスローオシレーションと同期することで、記憶が皮質ネットワークに統合される。認知テストの学習効果もこのメカニズムに依存しており、テスト後の睡眠が翌日のパフォーマンス向上に直結する。
神経新生と可塑性
海馬の歯状回では成人期を通じて新しい神経細胞が生まれ続ける (成体神経新生)。この新生ニューロンはパターン分離 (類似した記憶を区別する能力) に重要な役割を果たす。有酸素運動は BDNF の分泌を促進し、神経新生を 2-3 倍に増加させることが動物実験で示されている。ロンドンのタクシー運転手を対象とした有名な研究では、空間ナビゲーションの訓練により海馬後部の体積が有意に増大することが MRI で確認された。この可塑性は認知予備力の構築に直接寄与する。
ストレスと海馬の脆弱性
海馬はグルココルチコイド受容体を高密度に発現しており、慢性ストレスによるコルチゾールの持続的上昇に対して特に脆弱である。動物実験では慢性ストレスにより海馬の樹状突起が萎縮し、シナプス密度が低下することが示されている。ヒトでも PTSD 患者や慢性うつ病患者で海馬体積の減少が報告されている。睡眠不足も海馬機能を著しく損ない、一晩の断眠で新規記憶のエンコード効率が 40% 低下するとの報告がある。Bench のスコアの日間変動にはこの海馬の状態変化が反映されている。