BDNF の分子機能
BDNF は TrkB 受容体に結合し、細胞内シグナルカスケード (MAPK/ERK 経路、PI3K/Akt 経路) を活性化する。これにより、シナプスの長期増強 (LTP) が促進され、学習と記憶の分子基盤が強化される。海馬では BDNF が神経幹細胞の増殖と分化を促し、新しい神経細胞の生成 (神経新生) を支えるとされる。この経路は主に齧歯類の研究で示されたもので、ヒト成人での程度は 2026 年 8 月時点でも見解が分かれている。前頭前皮質については、樹状突起のスパイン密度の維持や、実行機能の基盤となるシナプス結合の保護に関わると考えられているが、これも動物研究を中心とした知見である。
運動と BDNF の関係
有酸素運動は BDNF 分泌を促す要因として広く挙げられる。中強度の運動を続けると運動直後に血中 BDNF が上昇し、その後しばらくかけて元の水準へ戻るという経過が報告されている。運動強度が高いほど急性上昇は大きくなる傾向が指摘されるが、長期的な基礎分泌量の増加にどの強度が適するかは 2026 年 8 月時点で定まっていない。筋収縮時に骨格筋から放出されるイリシンが脳内 BDNF の発現に関わるという経路も検討されている。
BDNF と認知パフォーマンス
血中 BDNF 濃度と認知テストのスコアの間に正の関連が報告されており、記憶課題や実行機能課題で扱われることが多い。有酸素運動を継続した高齢者で海馬の体積に差が出たとする MRI 研究もあり、BDNF を介した経路との関係が議論されている (介入期間や変化量は研究によって異なる)。認知テスト前の運動が一時的に集中しやすさへつながる可能性も検討されているが、テスト成績への効果は個人差が大きい。