BDNF の分子機能
BDNF は TrkB 受容体に結合し、細胞内シグナルカスケード (MAPK/ERK 経路、PI3K/Akt 経路) を活性化する。これにより、シナプスの長期増強 (LTP) が促進され、学習と記憶の分子基盤が強化される。海馬では BDNF が神経幹細胞の増殖と分化を促進し、新しい神経細胞の生成 (神経新生) を支える。前頭前皮質では樹状突起のスパイン密度を維持し、実行機能の基盤となるシナプス結合を保護する。
運動と BDNF の関係
有酸素運動は BDNF 分泌の最も強力な促進因子である。20-30 分の中強度運動で血中 BDNF が 2-3 倍に上昇し、この効果は運動後 1-2 時間持続する。運動強度が高いほど BDNF の急性上昇は大きいが、中強度の持続運動が長期的な基礎分泌量の増加に最も効果的である。筋収縮時に骨格筋から放出されるイリシンが血液脳関門を通過し、脳内 BDNF の発現を促進するメカニズムが近年明らかになっている。
BDNF と認知パフォーマンス
血中 BDNF 濃度は認知テストのスコアと正の相関を示す。特に記憶課題と実行機能課題での相関が強い。12 週間の有酸素運動プログラムにより海馬体積が 2% 増加したという MRI 研究は、BDNF を介した神経新生の効果を示唆する。認知テスト前の運動による急性的な BDNF 上昇は、テスト中の学習効率と注意機能を一時的に高める。