単純反応時間の定義と測定原理
単純反応時間 (Simple Reaction Time, SRT) は、あらかじめ決められた 1 種類の刺激に対して 1 種類の動作で応答するまでの時間を測定する。たとえば「画面が光ったらボタンを押す」という課題が典型例である。刺激の種類を判別する必要がないため、知覚から運動出力までの最短経路を反映する。測定値には末梢神経の伝導速度、シナプス伝達効率、筋収縮の立ち上がり時間が含まれ、認知的な判断処理はほぼ介在しない。
平均値と個人差の要因
健常成人の単純反応時間は視覚刺激で約 180-200ms、聴覚刺激で約 140-160ms が標準的な範囲とされる。聴覚のほうが速いのは、蝸牛から脳幹への伝達経路が視覚系より短いためである。年齢、覚醒度、体温、カフェイン摂取量などが個人差の主要因となる。加齢に伴い 10 年あたり約 5-10ms の延長が観察されるが、これは主にミエリン鞘の劣化と神経伝導速度の低下に起因する。日内変動も存在し、体温が高い午後に最速値を示す傾向がある。
認知テストにおける活用と限界
Bench の反応時間テストでは、単純反応時間を基準値として測定し、選択反応時間との差分から認知処理コストを推定できる。SRT が極端に遅い場合は睡眠不足や注意散漫の指標となりうる。ただし SRT は認知能力の一側面しか捉えておらず、知能や判断力とは弱い相関しか持たない。また、予測タイミングを学習して刺激提示前にボタンを押す「先読み反応」が混入しやすいため、刺激間隔をランダム化する設計が測定精度の確保に不可欠である。